ログイン彼から連絡先を聞かれるなんて思ってもみなかった。
「はい!私で良かったら」 あまりの緊張で声が大きくなってしまう。震える手でスマホを取り出し、画面を開く。
普段はアプリを開き、QRコードを読み取るといった簡単な作業なのに、あまりの緊張で操作方法がわからなくなる。 頭の中は真っ白だ。そんな私に彼は優しく
「俺が読み取っていいですか?」 声をかけてくれる。「はい」
私は自分の画面を黒崎さんに見せる。「今、美桜ちゃんにメッセージを送りました。見てください」
黒崎さんは私にメッセージを送ってくれたらしい。アプリを開くと、黒崎という名前が表示された。
メッセージ画面を開く。<これからよろしくお願いします>
これからよろしくって、義理かもしれないのに、嬉し過ぎて涙が出そう。
ずっと好きだった推しに会えたって感動に近いのかな。 ドクンドクンと大きな鼓動が止まらない。 黒崎さんが送ってくれた言葉に期待を抱いちゃう。「仕事で返信が遅くなるかもしれませんが、何かあったら連絡してください」
黒崎さんはそう私に伝え、去って行った。彼がこの場にいなくなったあとも、しばらく動けなかった。
これって夢じゃないよね? 何度も思っちゃう。心臓のドキドキが治らない。 大学で、優菜に彼と会えたこと、お礼を伝えたこと、彼から連絡先を交換しようと言われたこと、全て話をした。名前が黒崎さんっていうことも。「えっ、そんなことある!?良かったじゃん!!」
優菜も驚きを隠せないようで、良かったねと何度も繰り返し、ハグしてくれた。「夢じゃないかと思ってる」
まだ信じられない。「夢じゃないよ」
優菜は私の顔を思いっきり引っ張った。 お約束の方法に 「痛いよ!」 苦痛に顔を歪ませる。痛いから、夢じゃない。優奈ともちゃんと会話ができてる。
「いいなぁ。で、美桜は返事を送ったの?」
そうだ。
連絡先を交換できたことに満足しちゃって、私、何も送ってない。「まだしてない。でも、なんて送ったらいいかな」
黒崎さんから送られてきた一文を見て、悩む。 メッセージを送る上でこんなに返事で悩んだことはない。「普通に送ったらいいんじゃないの?今度ご飯に行きましょう?とか」
「ええっ!ご飯に誘うの!?いきなりそんなこと言えない」優菜のアドバイスは参考にならないよ。
黒崎さんに近づきたいのに、積極的になれない。 彼に嫌われるようなことはしたくない。 面倒とか嫌われるくらいなら、友達でいい。 まだ友達にもなれていないけど。「美桜、奥手だもんね。まぁ、返事くらいしてみれば?」
きっと家で返事を考えていたら、一人でずっと悩むことになる。優菜が近くにいてくれるうちに、返事を送ってみよう。
<今日は、連絡先を交換してくれてありがとうございました。嬉しかったです>
そう彼に送ろう。嬉しかったのは事実だから。
私は送信ボタンをタップする。「ふぅ」と息を吐く。メッセージを送るだけでこんなに緊張するんだ。
黒崎さんは返事をくれるかなぁ。大学の講義が終わり、アルバイト先へ向かう。
私は、個人経営のカフェでアルバイトをしている。
大学に入学をしてからすぐ雇ってもらうことができたので、働いて二年は過ぎた。 特に苦手な従業員はいないし、個人経営の比較的小さな規模のカフェのため、そんなにスタッフもいない。 コーヒーにこだわり、専門に取り扱っているため、コーヒー好きの常連客が多かった。 お店の雰囲気もゆったりとしているため、長時間利用するお客様も多い。バイトが最近億劫に感じてしまうのは、苦手がお客さんがよく来るためだ。
毎日来店するわけではないが、週に二回から三回程は顔を合わせる。 五十代くらいの男性、仕事の帰りにいつも寄るためか、スーツ姿だ。注文時や近くを通りすぎる時、身体を軽く触ってくることがある。 故意にやっているのか、たまたまなのかというくらいの触れ方で確信できないから、店長にも相談ができていない。 常連客のため機嫌を損ねるような態度はとれないし、最近行動がエスカレートしてきているように感じていた。「もしまたあのお客さんが来たら」
考えると足取りが重くなってしまう。
「お疲れ様です」
店長に挨拶をし、フロアに入る。私はキッチンスタッフではなく、フロア担当をしている。
客席を見渡すと、苦手なお客さんの姿が見えた。気にしないように、新規のお客様のオーダーを聞きに行く。
するとその後、苦手なお客さんに話しかけられた。 「東条ちゃん。最近、綺麗になったね」 ニコニコ笑っているところが少し怖い。「ありがとうございます」
名前は制服のプレートに書いてあるため、覚えられても仕方がない。 社交辞令のお礼を伝え、その場から通りすぎようとすると 「ちょっと!これあとで見ておいて」 一枚のメモを渡された。「かしこまりました」
ポケットにしまいその場を去る。なんだろう?
<蓮さんへ。今までありがとうございました。蓮さんと一緒にいた時間は夢のようでした。私が蓮さんに甘えすぎていて、いつも迷惑をかけてごめんなさい。私は蓮さんに何もしてあげられなかった。急にお別れすることになった理由を本当は知りたかった。私のダメなところを全部直すって言ったら、もっと一緒にいてくれましたか?最後まで迷惑をかけてごめんなさい。蓮さんは、もっと綺麗で頭も良くて、性格も良くて。そんな人が相応しいと思います。私なんかと付き合ってくれてありがとうございました。毎日が幸せでした。私は、まだ蓮さんのことが大好きです。でも、ちゃんとさよならをします。蓮さんが幸せでいられますように。> 彼女はどこも悪くないのに、なぜ最後までこんなにも優しい言葉をかけてくれるのだろう。嫌味の一つも書かれていない。 涙が頬を伝っていた。 十年以上だろうか、そのくらいぶりに流した涙だった。 愛する人を失う時、こんなにも辛いのか。はじめての経験だから、わからなかった。 美桜はもっと辛いはず。 こんなことを願うことは間違っているかもしれない。 俺はまだ彼女のことをーー。 それから二か月後ーー。「いらっしゃいませ。お客さま、何名様でしょうか?」 私は今、ファミリーレストランでアルバイトをしている。 育ててもらった伯母が病気で入院することになった。意識はあるが、長期間の入院になるらしい。 途中まで一緒に育った伯母の子は、実家からかなり遠くの大学に通学をしている。彼女は薬剤師になりたいという夢がある。私には絶対になりたいという夢がなかったから。彼女の変わりに一旦大学を休学し、地元へ帰ってきている。 退院がいつになるのかわからないから、東京のアパートは退去し、アルバイトも辞めた。 アルバイト先の店長からは「また帰ってきたら連絡して」と言われた。嬉しかったな。 大学にいつかは戻れるのかわからないけれど、せっかく勉強してきたから、退学ではなく休学という方法を選んだ。 親友の優菜とは遠距離になってからも毎日連絡を取り合っている。 伯母には「帰ってこなくてもいいわよ」なんて言われたけれど、入院していると必要なものや書かなければならない書類がある。伯母も離婚をしているから、あまり頼りにしている親類はいないのは知っていた。 伯母は私のことを本当の子どもではないのに、いなく
「あっ!」 すぐわかった。 スーツ姿の蓮さんがこっちに向かってくるのが見えた。 スマホを見ていて、私には気づいていないみたい。 久しぶりに見る蓮さん。 カッコいいな。 呑気かもしれないけど、そう思っちゃう。 蓮さんが私に気づいて、一瞬、歩くのが止まった。「美桜……?」「蓮さん、ごめんなさい。待ち伏せみたいなことして。こうでもしないと会えないから……」 頑張れ、私。「きちんとさよならを伝えに来ました。あと、蓮さんの家にある荷物を取りに来ました。今日はそれだけで帰るので安心してください」 しばらく沈黙が続く。 蓮さんは、なんて返事をしてくれるんだろう。「わかりました。ここでは人目につくので、荷物もありますし、部屋に来てください」「はい」 私は、彼のうしろをついていく。 蓮さんは、別れたつもりでいたのだろうか。 私が<さよなら>と言っても動揺した素振りさえしなかった。 少しでもいい、寂しそうな顔をしてほしかったな。 私の存在は彼にとって、小さなものだったの?「お邪魔します」 久しぶりに入る蓮さんの部屋。 綺麗に整えられた部屋、何も変わってはいなかった。 忙しさが別れの原因だったら、部屋は散らかっているよね。 女の人の物があったらどうしようとか思ったけど、そんな痕跡もない。 二人で座って過ごしたリビングのソファも、二人でご飯を食べたキッチン前の机も、もうここへ来ることがないと考えるとすごく寂しい。 さよならするって決めたのは私なのに。決心がついたと思ったのに、蓮さんを前にすると心が揺らぐ。 リビングで蓮さんと向き合う。 私のこと、こんなにしっかりと見てくれたのは久しぶりかも。「蓮さん?」「俺は……」 その時、彼のスマホが鳴った。「すみません。電話をしてきます」 そう言って彼は寝室ではなく。珍しくベランダに出て行った。 よほど私に聞かれたくない内容なのかな。 早く蓮さんの寝室にある私の荷物を整理して帰らなきゃ。 そう思い、寝室に入る。 ベッドも何も変わっていない。 ここで蓮さんに慰められたり、抱きしめられたり、キスされたり。 幸せだったな。 もう泣かないと決めたのに、涙が溢れる。 ダメだ、我慢我慢。 私は持ってきたボストンバックに自分の荷物を突っ込んだ。 蓮さんの部屋にあった私の
「はい」 正直に答えた。<じゃあ、見ましたか?> 何を……と言いかけたが、止めた。 「見ました。女の人と一緒にいるところと……。あと、タクシーに乗る前のことも……」 しばらく無言が続く。 「蓮さん、どうして?連絡を取れない理由も、会えない理由も。今日のことも……」<すみません。言えないんです。もし……。美桜がこの状況を耐えられないのであれば……> ドクンと心臓の音がした。 <別れましょう。それが美桜にとっては幸せかもしれません> 別れる……。 私は、今まで誰とも付き合ったことがなかった。 大好きな人との別れって、こうも突然に訪れるものなの? こんなに簡単に終ってしまうの? 蓮さんは、そんなに簡単に別れることができるの? 頭の中は聞きたいことでいっぱいなのに、蓮さんに聞くことができない。<もう話せる時間がありません。すみません。もし、最後に会った時の言葉を覚えていてくれるのであれば……待ってい……> 電話が途中で切れた。 すぐかけ直したが、再び彼に電話が繋がることはなかった。「別れる……」 涙が頬を伝う。 泣き崩れるしか私にはできない。 蓮さんが言いかけたこと、頭から離れない。 最後に会った時の言葉って、やっぱり「俺のことを信じてください」だよね? 私はどうすればいいのだろう。 別れたくない。でもこの状況がすごく辛い。 彼の言った通り、別れた方がいいの? 彼はさっきの言葉を伝えて、もう別れたつもりでいるの? 何もかもわからない。自分がどうしたいのかも。 それから二週間、三週間と日々が過ぎた。 蓮さんから来ない連絡を毎日待つ日々。 学校にいる時や、アルバイトをしている間だけは彼のことを少し忘れられた。 しかし、家に帰って一人で過ごしているとずっとスマホを見つめてしまう。 蓮さんが買ってくれたネックスレスは、蓮さんから<別れた方が幸せかもしれない>と言われた時、あの日からつけていない。 蓮さんがプレゼントしてくれたイルカのぬいぐるみは机の上にいる。「蓮さん、どうしちゃったんだろうね?」 イルカくんに話しかける寂しい毎日。 その時、スマホが鳴った。 電話だ。 着信先を見る。「えっ。なんだろう?」 何かあったのだろうか、見慣れない着信先の相手と話す。 「もしもし?」<久しぶり。
あんなところを見て、声をかけられない。 あまりのショックに周りにいる人を考えず、その場に座り込みそうになった。 キスくらいって考えなきゃ。子どもじゃないんだから。蓮さんが他の女の人とキスするなんて。やっぱりもう、私のことなんか好きじゃないのかな。彼女だと思っていないんだろうか。 「大丈夫ですか?」 フラフラしていたのかわかったのか、見知らぬ女の人に支えられた。「あっ、すみません」「おい、花音。なんでそんなに走って行くんだよ?」 女の人の彼氏?だろうか。「具合悪いんですか?大丈夫?」 花音と呼ばれた女の人が私を支えてくれている。「救急車呼ぶか?」 彼氏と思われる人がスマホを取り出す。「気が早いです。お姉さんから話を聞かないと」「あっ。そこまでではないので、大丈夫です。すみません。ありがとうございます。ちょっと精神的に具合が悪くて……」「そうなんですか……」 二人は、私を心配そうに見ている。 良い人たちだな。涙が出てくる。「えっ、どうしたの?私で良かったら、話を聞きますよ?同じ年くらいだし。ねっ?いいですよね?」「お前な、俺はいいけど。勝手に人の事情に突っ込んでいくなよ。迷惑かもしれないってことを考えろ」 この二人みたいに、言いたいことを言い合えることができたら、こんなことにならなかったかもしれない。 私がさっき彼を引き留めて、話を聞けていたら、もしかしたら誤解が解けたのかもしれない。「美桜!遅くなってごめん!混んでて」 優菜が走って来てくれた。「あれっ?どうしたの?」 優菜は状況が飲み込めず、困惑していた。「ちょっと、精神的に具合が悪くなっちゃって。花音さんが助けてくれたの」 優菜が私を支えてくれたため、花音さんは私から手を離す。「ありがとうございました」 二人に頭を下げ、お礼を伝える。「いえいえ。何もしてませんから。お身体、大切にしてくださいね」 そう言って二人は私たちから離れていく。 自然と彼氏さんが花音さんの手を取り、自分のポケットに入れたのが見えた。 いいな。羨ましい。 嫉妬とかじゃない。ただ単純に羨ましいと感じてしまっただけ。 私はもう蓮さんと手も繋げないのかな。 私のアパートに帰り、私の見たことを優菜に話した。 その時には落ち着くことができたから、泣くことは我慢した。「なにそれ
蓮さんと会えなくなって、二週間。 毎日やり取りをしていた連絡も、今は一切来なくなった。 私から送る連絡も既読にはなるが、返信がない。電話をかけても折り返しはない。「彼を信じる」とは伝えたけれど、理由もわからず、こんな状況のため落ち着くわけがない。大学がある日は優菜に毎日相談をしてしまう。「今日も連絡がなかったんだよね」「そっかぁ。どうしたんだろうね?黒崎さんもなんか事情があるのはわかるけどさ、一言教えてくれたって良くない?」 優菜の言葉に、私はなんて返事をしていいのかわからない。<蓮さんのことだから、大丈夫>って自信を持って言えればいいのに。 彼と繋がっていた毎日は、なんでもない平凡な日でも楽しく幸せに感じていたのに、正直今は不安という気持ちが一番だ。 蓮さんの声が聞きたい。 連絡が取れない理由を知りたい。 今日はアルバイトもお休みだし、一瞬でもいいから彼に会いたい。<少しだけでもいいので、会えませんか?> 我儘かもしれないが、そうメッセージを送ってしまった。「そのくらい、いいんじゃない?理由を教えてくれない蓮さんが悪いよ」 お昼くらいに送ったメッセージは、夕方になり講義が終わる頃になっても返信はない。「じゃあさ、直接家に行っちゃえば?黒崎さんからいつでも来ても良いって言われていたんでしょ?」 いつでも来てもいいと蓮さんには言われていたけれど。 今は状況が違うような気がして行動に移せない。「私も今日アルバイト休みだし、一緒に付き合うよ!黒崎さんに会いに行こう。親には遅くなるって連絡しとくから!」「えっ?本当?」 一人で行く勇気がなかった。 優菜が一緒なら心強い。「黒崎さん、帰り遅いんでしょ?じゃあさ、とりあえず近くのファミレスで時間を潰そうよ」「うん」 講義が終わり、蓮さんの家の近くのファミレスに移動をして時間を潰していた。 「ねえねえ。美桜、大丈夫?顔色悪いよ」 緊張と不安で押しつぶされそう。 前みたいに普通に話せるかな? 何年も会っていないわけではないけれど、いつもの自分でいられるだろうか。 そんなことを思いながら、ガラスに映る人々を見ていた。 ファミレスの席は窓際だった。 通り過ぎる男女がとても幸せそうに見える。 私もこの前まで、あんな感じだったのかな。蓮さんと並んでいた時、カップルに
メッセージを開くと<今日会いたい>という蓮さんからのメッセージだった。 いつもなら<今日、会えますか?>って連絡をしてくれる彼だったから<会いたい>普通のメッセージかもしれないのに、何かあったんじゃないのかって不安になる。 蓮さんが私のアパートに来てくれることになった。 私の部屋は狭いから、いつもお泊りする時は蓮さんの部屋だったけれど、蓮さんもこの部屋には何度か入ったことがある。 <着きました> メッセージを確認したすぐあと、アパートのインターホンが鳴る。 ドアを開けると、仕事終わりの蓮さんが立っていた。「お疲れ様です。どうぞ入ってください」 私が声をかけると、蓮さんは「お邪魔します」 いつもより声に元気がないような気がする。 チラッと蓮さんの顔を見ると、少し怒っている? 眉間にシワが寄っている気がした。 あまり見ない彼の表情と雰囲気。 仕事が忙しくて疲れているのかな。 昨日までは普通だったのに。「お疲れ様です。蓮さん、疲れてますか?」「大丈夫です。急にお邪魔してしまってすみません」 なぜだろう。なんだか嫌な予感がした。 今日、ずっと感じていた嫌なことを言われる気がして、肩に力が入る。「夕ご飯、食べましたか?何か作りましょうか?」 蓮さんの言葉を聞きたくなくて、私はいつも通りでいようと思い、彼の雰囲気を気にすることなく、そんなことをたずねてみた。「大丈夫です」 大丈夫って、どっちなんだろう。やっぱりいつもと違う。「どうしたんですか?蓮さん、体調とか。悪いですか?顔色も悪いような気がします」 彼の顔を覗き込む。「美桜は、何があっても俺を信じてくれますか?」「えっ?」 予想していなかった言葉に即答できない。 蓮さんを信じることなんて当たり前だけど。 何があってもって。理由を知りたい。「もちろんです。信じています」 蓮さんは真剣な表情で私を見つめるも、なぜか悲しそうな目をしている。「ありがとうございます」 その後、間があり「しばらく会えなくなるかもしれません。理由は言えないんです」 そう言って、私を抱きしめた。 会えなくなる?忙しいから?別れるわけではないよね? どうしてって言いたくなったけれど、理由は言えないって言われている。 いつもの蓮さんなら、きちんと説明してくれるのに。
「暗い話になってしまい、すみません。自分のことは不幸だと思ったことはないので。気にしないでくださいね」 気にしないでくださいねと言う彼。「私、黒崎さんの支えになりたいです!今は頼りないかもしれないけど。もっと強くなって大人の女性になれるよう頑張ります」 もっともっと強くなりたい。 彼が頼ってくれるような人になりたい。 いつまでも守られているようじゃダメだ。「もう十分支えられています。俺が愛ちゃんを守らないといけませんね」「ダメです!たまには守られててください」 私の言葉を聞いて彼は笑う。「わかりました。期待しています。でも……」 車が信号で止まった。 彼は私が先ほど口に
「二回目にあの場所で会った時、嬉しかったです。美桜ちゃんも俺のことを覚えていてくれたみたいで。目が合って、ドキッとしました。普段なら絶対聞かないはずの女の子の連絡先を自分から聞いていました。柄にもないですが、運命なんじゃないかって勝手に感じて。連絡先を交換してやり取りをする中で、変わらず美桜ちゃんは良い子だった。こんな子と付き合うことができたら、毎日が楽しいんだろうなって思いました」「そして、昨日あんなことが起こって。もう二度とあんな思いはさせたくないと思った。俺が守らなきゃって」 黒崎さんが前から私のことを知っていたなんて、思わなかった。 本当は私たち、前から会ってたんだ。
黒崎さんの手、大きい。男性の手ってこんなに大きいんだ。ごつごつしてて、逞しい。好きな人と手を繋いだの、はじめてかもしれない。 近くの駐車場に駐めてあった車に乗る。なぜか後部座席に案内をされた。 黒崎さんも後部座席に一緒に座る。「もう泣いても大丈夫です。よく我慢できましたね」 頭を撫でられ、ギュッと手を握ってくれた。 どうして彼にはわかっちゃうんだろう。 こらえていた涙が抑えられなくなる。 彼がおいでというように手を広げてくれる。 甘えてしまっていいの?だけど、彼には好きな人がいるんじゃ。 私、こんなことされたら、黒崎さんのこともっと好きになっちゃう。 私が躊躇し
「私、この後、昨日のことを警察に相談に行きます。黒崎さんと約束しました。逃げないできちんと話をします。もしかしたら他にも嫌な思いをしている人がいるかもしれないから」 川口さん《あの人》を許せない。 もしかしたら、私と同じような目に合っている人もいるかもしれない。 昨日のことを鮮明に思い出して伝えるのは、恐い。フラッシュバックして、泣いてしまうかもしれない。でも、黒崎さんに支えてもらって、このままじゃいけないよね。「わかりました」 私の気持ちを考えてくれたのか、黒崎さんは何も言わなかった。肯定も否定もしない。 ただ「俺が送って行きますね。美桜ちゃんが警察で話が終わるまで、近く